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先月(2月)26日、中村中さんが出演されていた舞台『ガス人間第1号』の模様が、NHK教育テレビにて放映されました。この作品は、1960年公開の同名の東宝特撮映画が原作です。

映画のほうは未見でしたが、中さんの演技が観たかったので、予習もなくいきなり舞台版を観てみました。

いやー、素晴らしかったです! 中さんも、作品そのものも。

ちなみに、この舞台版の放映から4日後の3月2日には、デアゴスティーニから刊行中の分冊百科シリーズ『東宝特撮映画DVDコレクション』の最新号として、原作映画の『ガス人間第1号』の廉価版DVDも発売されました。もちろん購入。オリジナルとリメイクの優劣を判じたかったんじゃなくて、単純に二者の差異を確認したくて。

舞台版では時代設定が変更されていたり、コメディ色が加味されていたり、ディテールや演出の面でいろいろな変化が施されているんだけど、筋の運び自体は、至って原作に忠実。テーマにも全くブレがありません。あとから映画版を観たおかげで、この舞台版の脚色には原作への愛情があふれていることが、すっごくよくわかりました。

その他にも、東宝特撮映画の常連俳優のお一人であった水野久美さんが、舞台版では原作にないキャラクター役で出演されていたり、伊原剛志さん演じる主人公の刑事のケータイの着メロが『ゴジラ』のテーマ曲であったり、マニアックな遊び心が随所にちりばめられた、東宝特撮映画へのオマージュにもなっています。

原作映画でヒロインの春日藤千代を演じていたのは、八千草薫さん。日本舞踊の春日流家元という設定です。そしてガス人間と化した男、水野は、愛する藤千代が資金難のために発表会を開催できず困っているのを見て、銀行強盗に走ってまでして藤千代を支えようとします。

原作映画『ガス人間第1号』予告篇


そして舞台版『ガス人間第1号』で春日藤千代に当たるヒロイン、藤田千代を演じているのが、中村中さんです。



藤田千代は、10年前にインディーズからメジャーに進出したロック・バンド「情鬼」のヴォーカリスト。愛称は「藤千代」。しかし、ある日とつぜん芸能界から姿を消して、今では伝説の歌手となっている、という設定です。

この藤田千代というキャラクターは、もしも中さん以外の女優さんが演じたら、ここまで実在感のあるキャラクターにはならなかったんじゃないかなー、と思いました。シンガーとしての中さんの持ち味、そしてソングライターとしての中さんの世界観が、藤田千代というキャラクターの重要な一部として、完全に不可分なものになっているんです。

おそらく藤田千代は、最初から中さんが演じるのを前提に脚色されたキャラクターのような気がします。実際のところはどうなのかわからないけど、個人的にはそういう印象を受けました。

で、ここで話はちょっと横道に逸れるんですが。

NHK総合テレビで放映されている音楽番組『SONGS』に中村中さんが出演されたとき(2007年10月24日)、俳優の戸田恵子さんとの対談の中で、中さんは曲を書くことについて、次のように語っています。

「自己表現ではあったんですね。学生のころから曲を書いているんですけど、曲を書くということで自分の精神を保っているような部分があったりして、それがないと周りの波に呑まれてしまいそうな感覚を覚えていたんですね。学生のとき、既に。今もそうで、私がここにいる理由みたいなものを見つけたかったんです。それまでは、世界に何か残せるかな? とか、私が歯車の一つになっているだろうか? って凄い疑問で、生きている意味って何だろう? みたいなところに行き着いてしまって、これでどんどん考えを深めていったら、ちょっと誤ったことになるな、っていう。」

また、以前テレビ朝日系列で放映されていた『オーラの泉』に中村中さんが出演されたとき(2008年3月1日)にも、やはり戸田恵子さんがVTRで登場して、中さんの音楽を評して次のように語っています。

「やっぱり凄く傷ついて今まで生きてきたところも沢山あるでしょうから、『人の痛み』に関して凄く敏感」

――これらの言葉に表れている、シンガー・ソングライターとしての中さんの繊細さと、ストイックで求道的な姿勢。

それが、「藤田千代」というキャラクターの上にもそのまま投影されることによって、彼女は架空の歌手でありながら、中さんと同じようにカリスマ性のある存在として、観客の目にはリアルな実在感をもって映るんです。

そして彼女の上に投影された、中さんのシンガー・ソングライターとしての個性――ストイックで求道的な歌への情熱と、自分が傷ついてきたからこそ人の痛みにも敏感であること――が、この物語を、単なるフリークスの悲劇で終わらせるのではなく、人としての尊厳を失わないために自ら業火に身を投じる無償の愛の物語にまで、高めているんですよね。

だからといって、中さんが「中村中」のままで舞台の上に立っているのかというと、そんなことは全然ありません。中さんの演技力があってこその「藤田千代」でした。

たとえば、藤田千代の設定上の年齢は、たぶん30代から40代。しかし中さん自身は20代前半。今回の出演者の中でも目立って若いほうです。にもかかわらず、中さんの演技は設定年齢とのギャップを全く感じさせません。暗い過去の見え隠れする、ミステリアスな雰囲気をたたえた妖艶な大人の女性を、中さんは20代前半の若さで見事に演じ切っています。歌うように滑らかな台詞回しの美しさも、歌手ならではの秀逸さです。

中さんは、この舞台の音楽も担当されています。劇中で藤千代が熱唱する「焼心者」という楽曲は、この舞台のために中さんが新たに書き下ろしたものです。

劇中では三度ほど歌われるんですが、非常にユニークなのは、物語の進行に伴って――つまり、藤田千代の内面の変化に伴って――曲のアレンジとタイトルが変化していくところです。

物語の序盤で歌われるときには、ピアノ1本のバラードで、タイトルは「小心者」。二度目はロック風のアレンジで、タイトルは「傷心者」。そして三度目、物語のクライマックス、藤田千代の復活コンサートのシーンでは、スケールの大きな、荘厳な雰囲気のアレンジが施され、我が身を滅ぼす業火のような情念あふれる愛を歌う「焼心者」という最終形に、劇中で進化を遂げていきます。

千代の心境の変化に伴って、その楽曲もまた姿を変えていく――その過程を、観客はちゃんと観てきているから、クライマックスのコンサートのシーンでは、この「焼心者」という曲は、もはや中村中の曲というよりも、「藤田千代の曲」として、観客の耳と心に届くんですね。

中さんの書き下ろした楽曲が、物語の上でも作劇の上でも重要な役割を果たしている、そんな『ガス人間第1号』は、「音楽劇」としても楽しめる作品です。



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2010.03.10 Top↑
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