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昨年(2009年)の10月10日に33歳の若さで亡くなったスティーブン・ゲイトリーが、1999年にゲイであることをカミング・アウトして以降、イギリスのポップス界では、ゲイであることをカミング・アウトする男性アイドル・シンガーが、継続的に現れています。

Will Young / All Time Loveまず、2002年には、人気オーディション番組『Pop Idol』の第1シーズンの優勝者であるウィル・ヤングが、デビュー・シングルのリリースからほどなくして、ゲイであることをカミング・アウトしました。

アンドルー・キンローカン2003年10月には、『Pop Idol』の後追い番組のうちの一つ、『Popstars: The Rivals』のファイナリストたちによって結成されたボーイバンド、フィックス(Phixx)のメンバーであるアンドルー・キンローカンが、フィックスの制式デビューに先立って、イギリスのゲイ雑誌『Attitude』の11月号の誌上で、ゲイであることをカミング・アウトしました。制式デビュー前からゲイであることを明かしていた男性アイドル・シンガーは、このアンドルー・キンローカンが初ですが、フィックスはアルバムを1枚リリースしたのみで活動を休止しています。

Westlife / Face To Face2005年8月には、イギリスでは並ぶ者のない人気ボーイバンド、ウエストライフのメンバーであるマーク・フィリーが、ボーイフレンドのケヴィン・マクデイドの存在を明かし、ゲイであることをカミング・アウトしました。

V『You Stood Up』そのケヴィン・マクデイドも、やはり男性アイドル・シンガーでした。彼が在籍していたのはというボーイバンド。Vもフィックスと同様、レコード会社が期待していたほどの成功を収められなかったため、アルバム1枚をリリースして解散してしまったのですが、このVからは、ケヴィン・マクデイドのほかにもアーロン・バッキンガムが、2006年の7月に、イギリスのゲイ雑誌『Attitude』の8月号にコラムを寄稿して、ゲイであることをカミング・アウトしています。

『Buzz』ジャケット2007年1月には、イギリスの大物プロデューサー・チーム、ストック/エイトケン/ウォーターマンによって世に送り出された男女混成のアイドル・グループ、ステップスのメンバーであったイアン・ワトキンスが、タブロイド紙『The Sun』のインタヴューに応えて、ゲイであることをカミング・アウトすると共に、ステップスのマネージャーであったティム・バーンと10年に渡って交際していたことを明らかにしました。

そして2009年7月には、人気ボーイバンド、ブルーのメンバーであるダンカン・ジェイムスが、タブロイド紙『News of the World』のインタヴューに応えて、バイセクシュアルであることをカミング・アウトしています。



このように、イギリスのポップス界では、男性アイドル・シンガーのカミング・アウトの例が、既にいくつも存在しているのですが、ここにまた一つ、新たな例が加わりました。

イギリスの人気オーディション番組『X-Factor』の昨年度(第6シーズン)の優勝者である、ジョー・マケルダリー(Joe McElderry)が、7月31日、『Daily Mirror』や『The Sun』などの複数のタブロイド紙のインタヴューを通じて、ゲイであることをカミング・アウトしました。

Joe McElderry: I'm gay - X Factor winner comes out in Daily Mirror interview (mirror.co.uk, 2010.7.31)

ジョー・マケルダリーは、弱冠19歳のティーンネイジャーです。そして現在までに単独でリリースした作品はシングルが1曲だけの、ピカピカの新人です。そのデビュー・シングル「The Climb」は、マイリー・サイラスのカヴァー曲です。昨年(2009年)の12月に、全英およびアイルランドのシングル・チャートで、見事 No.1を記録しています。

"The Climb"
(2009)


さて、今回のジョー・マケルダリーのカミング・アウトなんですが、先に列挙したこれまでのイギリスの男性アイドルのカミング・アウトに比べて特異な点があります。

それは、ツイッターがきっかけとなっている、ということです。

ジョー・マケルダリーも、やはり他のセレブたちと同様、ツイッターのアカウントを取得しています。そして先月(2010年7月)の7日、下の画像のようなツイートが、ジョーのアカウントから投稿されたのが、すべての始まりでした。

@joemcelderry91のツイート


実は、このツイートはジョー・マケルダリー本人によるものではありませんでした。このツイートの投稿から数分後に、「僕のツイッターがハックされた!」というツイートが、同じアカウントから投稿されました。

どうやら何者かがジョーのアカウントをハッキングして、アウティングを行なったらしいというのです。

そして、ジョー自身は、自分がゲイであることは否定しました。

騒動の詳しい経緯はこちら。
Look what some well mature hacker's done to Joe McElderry... (3am.co.uk, 2010.7.7)

この騒動からわずか数週間後の7月31日、今度はジョー・マケルダリー自らが、ゲイであることをカミング・アウトした、というわけなんです。

ゲイであることをこれまでは否定し続けてきたにもかかわらず、今度は一転してカミング・アウトに踏み切った理由について、ジョーは『Daily Mirror』紙のインタヴューの中で、「つい最近まで、自分でも自分のことをよくわかっていなかったからだ」と述べています。

ジョーが『X-Factor』で優勝した直後から、彼がゲイではないかという噂は、既に広まっていたそうです。が、彼自身はあまりにも忙しかったせいで、自分の性的指向のことなど全く頭に浮かばなかったのだといいます。

ツイッターでのハッキングおよびアウティング騒動があった後、ジョーは自分がゲイであることを否定し続けてきましたが、それは決してウソをついたわけではないのだそうです。

曰く、相手が女性であれ男性であれ、ジョーはこれまで、誰にも魅力を感じたことがないそうです。何人もの女の子とキスをした経験はあるし、男の子とも一度だけキスをしたことはあるけれど、心から相手に魅かれる経験はなかった。だから、自分の性的指向について考えるという発想自体がなかったんだそうです。

しかし、ツイッターでのハッキング騒動を受けて、自分の性的指向について熟考するようになったジョーは、まだ同性との経験はないけれども、「自分はゲイである」という結論に至ったのだそうです。

その後、ジョーがいちばん最初にカミング・アウトした相手は、彼のお母さんだそうです。ジョーのお母さんは、息子の性的指向を全面的に受け入れてくれているそうです。そして『X-Factor』の審査員であり、ジョーの所属レーベルのトップでもあるサイモン・コーウェルも、彼の決断を支持し、これからもジョーをサポートしていくことを約束してくれたそうです。

こうしてジョーは、母親にカミング・アウトしてからわずか一週間後の7月31日には、今度はメディアを通じて、不特定多数の人々に向けてもカミング・アウトを行なった、というわけなんです。

ジョー・マケルダリー バイオグラフィー ←読んでね。

何者かによるハッキング行為がきっかけとなった、今回のジョー・マケルダリーのカミング・アウト。つまり、ジョー・マケルダリーはアウティングの被害者であるはずです。ところが、ジョー・マケルダリー本人は、今回のカミング・アウトを非常に前向きにとらえています。『The Sun』紙のインタヴューでは、「おかげで本当の自分を知ることができたし、地に足が着いた」とまで述べています。

Joe: Gossip on Twitter made me decide to come out (thesun.co.uk, 2010.7.31)

とはいうものの、たとえジョー本人が今回のハッキング騒動の結果をどれだけ前向きにとらえていようとも、ハッキングが行なわれたことが事実であれば、クロゼットのセレブにカミング・アウトを強迫する外圧が働いていたこともまた事実です。

そうした外圧の結果によるカミング・アウトだという点で、今回のジョー・マケルダリーのカミング・アウトは、イギリスの男性アイドル・シンガーのカミング・アウトの原点に位置する、スティーブン・ゲイトリーやウィル・ヤングのケースと、似通ったものがあります。

スティーブン・ゲイトリーも、それからウィル・ヤングも、彼らがカミング・アウトを決意したのは、タブロイド紙が彼らの性的指向を暴き立てようとしているのを事前に察知したからでした。ゲイであることをスキャンダルにされてしまうよりも、彼らは自らカミング・アウトする道を選んだ(あるいは、選ばざるを得なかった)のです。

ただし、ジョー・マケルダリーのケースが、スティーブン・ゲイトリーやウィル・ヤングのケースと異なっているのは、ジョーにカミング・アウトを強迫した外圧が、マス・メディアの報道ではなく、ツイッターのアカウントをハッキングするという、一部のゆきすぎたネット・ユーザーの悪戯であった、というところです。

つまり、今日では、クロゼットのセレブにカミング・アウトを強迫する外圧となっているのは、もはやマス・メディアによる報道ではなくなっているのかもしれません。それよりも、こうした一部のネット・ユーザーのゆきすぎた振る舞いこそが、クロゼットのセレブにカミング・アウトを強迫する新たな外圧となっている。そのことを、今回のジョー・マケルダリーのカミング・アウトは示しているのではないでしょうか。

(正確にはジョー・マケルダリーはクロゼットだったというよりも、まだ19歳という若さゆえに、自分の性的指向に自分で気がついておらず、今回のハッキングによって否応なしに性的指向への自覚を迫られた、ということになると思いますが)

大西洋を隔てたアメリカでは、オーディション番組『アメリカン・アイドル(American Idol)』出身の2人の男性アイドル、クレイ・エイケンアダム・ランバートが、インターネットに絡んだアウティング被害を受けています。クレイ・エイケンは2006年3月に、ゲイ向けの出会い系チャットで知り合ったジョン・ポーラスという男性によって、チャット画像と記録をタブロイド紙『National Enquirer』に売却されてしまうというアウティング被害に遭っています。またアダム・ランバートは、『アメリカン・アイドル』第8シーズン出演中に、男性とフレンチ・キスを交わしている写真がネット上に流されました。これらはいずれも、彼らがメディアを通じてカミング・アウトするよりも前の話です。



韓国の芸能界では、ネット・ユーザーからの悪辣な誹謗中傷が、何人もの芸能人を自殺に追い込んでいるのは、もはや有名な話です。

そして、ソーシャル・ネットワーキング・サーヴィスの世界では、一部のユーザーによる、「有名人のなりすまし」が、以前から問題となっています。

たぶんこれからは、クロゼットのセレブにカミング・アウトを強迫する外圧として機能するのは、マス・メディアの報道などではなく、ソーシャル・ネットワーキング・サーヴィスの存在なのではないか。そんな気がします。

その最初の例が、今回のジョー・マケルダリーのカミング・アウトだったのではないでしょうか。

クロゼットのセレブがもっともっとたくさんカミング・アウトしてくれたら、私個人としては、それを嬉しく思います。ただし、第三者による性的指向の暴露、つまりアウティングは、非常に卑劣な行為です。そのような行為を、私は歓迎しません。

ツイッターを始めとしたソーシャル・ネットワーキング・サーヴィスが全盛の今日では、マス・メディアが書き立てる「ゲイ疑惑」とか「ゲイ・スキャンダル」以上に悪辣なアウティング行為が、一部のゆきすぎたネット・ユーザーたちの手によって、むしろ増加していくのではないか。そんな危惧を、私はいだいています。


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2010.08.03 Top↑
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