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DEN『標された道』CDジャケット今年の5月15日に新宿で開催されたLGBTミュージック・ライヴ・イヴェント『INSIDE OUT the LIVE 2010』にも出演されていた、LGBTシンガーのDEN さんが、8月31日、ついにデビュー・アルバム『標された道』をリリースなさいました。

このアルバムについて語り始める前に、まずはジョーイ・カルボーンさんのインタヴューでの発言を、ここで紹介させてください。ジョーイ・カルボーンさんは、1983年の日本映画『里見八犬伝』のサウンドトラックを手がけたのを皮切りに、数多くの日本人アーティストに楽曲を提供してきた、アメリカのソングライター/プロデューサーです。

「日本にも沢山の作曲家がいるのに、アメリカ在住の JOEY が作った曲が日本で売れるのはどうしてなんだろう?」との質問に、ジョーイ・カルボーンさんは英語まじりの日本語で次のように答えていらっしゃいます。

「僕は外人だからチョット違うね。それ以外にも僕は20年前に JPOP を自分で勉強した。日本人が好む曲はAメロー、Bメロー、サビがある曲。僕はブルックリン育ちで、アメリカンポップミュージックの中で育ち、特にその頃の音楽は今のアメリカ音楽と違ってVERY MELODIOUSだったし、あと僕はイタリアの音楽、カンツォーネを聴いて育った。だから、僕の作る音楽はアメリカンポップスとカンツォーネのミックス!」

「日本人は昔、カンツォーネ、フランスの曲や南ヨーロッパの曲を聴いたと思うんだよね。最近のアメリカンポップはRBミュージックでグルーブだけで、サビで歌詞はちょっとだけ変ってコードは同じ、Too Straight。僕の前の彼女は日本人で『最近のアメリカンポップはつまんないね』と言ってた。それに対してJPOPは昔も今もAメローとBメローとそれに変調もするし、サビは音程が高い。特に、サビが耳に残るから、15秒のサビだけでCMが作れるくらい強烈な印象を与える。例えば FUJITV の CM は40秒だけど、スゴイ耳に残る。もちろん。アメリカのシンガー、特に黒人は歌はめちゃくちゃうまいし、歌だけでやっていける。それに対して、日本のシンガーは黒人ほどパワフルな歌唱力はないから、メロディアスな曲を作ってやらないといけないから作曲家としては、とてもチャレンジング!」


言語や地域、人種の違いが、文化の嗜好性の違いにどの程度の影響を与えているのか、そこにははたして因果関係があるのか否か、そうした考察は、専門の研究者のみなさんにお任せします。私はここでそれを議論するつもりはありません。私が言いたいのは、カルボーンさんが指摘したような音楽的嗜好の違いは、一つの傾向として確かに存在しているであろう、ということです。この傾向を踏まえた音作りによって大成功を収めたのが、あの小室哲哉さんだったと思うんですね。

全盛期の小室さんが作曲・プロデュースしたシングル曲は、海外のクラブ・シーンでの流行を次々と取り入れつつも、特に日本で好まれている要素――たとえば、Aメロ+Bメロ+サビというわかりやすい曲構成や、転調の多用、高い音程のサビ、etc――を、しっかりと備えていました。そして、そうした要素が後退し始めた時期(安室奈美恵さんの「toi et moi」や「LOVE 2000」あたりから)と、小室サウンドの大衆的な人気が下降線をたどり始めた時期は、ほぼ重なり合っています。

DEN さんのデビュー・アルバム『標された道』も、そのキャッチで謳われている「どこか懐かしいメロディー/“和”と“洋”を融合した Pop sound」という言葉のとおり、非常に洋楽的な音色やリズムを用いながらも、メロディーそのものは先に挙げたような日本で好まれる要素に則って作られています。たとえば、2曲目の「なくしたこころ」や7曲目の「キャンディラビット」のリズムにはニュー・ジャック・スウィングが取り入れられていますが、メロディーそのものは日本で昔から好まれている――言い回しを変えれば、一定の地域内での最大公約数的な嗜好の傾向を示す言葉としては日本的という形容も可能な――伝統的なポップスのスタイルです。

この“和”と“洋”の融合というコンセプトは、洋楽的なサウンドと日本語へのこだわりが強くうかがわれる歌詞との対照にも表れ出ていると思います。よく J-POP の歌詞には英語のフレーズが部分的に用いられていますが、DEN さんの書かれた歌詞には英語のフレーズは部分的にも使われていません。これは意識的にそうなさっているのだと思います。「シグナル」や「キャンディラビット」といった楽曲のタイトルも、これが一般的な J-POP の発想ならば英語で表記するところを、あえてカナで表記しています。ジャケットに印字されたアルバムのタイトルも、毛筆フォントで縦書き表記されています。

こうした日本語へのこだわりは、欧米産の文化を否定するような排他的性質のものでは決してありません。あくまでも“和”と“洋”の融合――しかも DEN さんの場合は、両文化を均質化するというよりは、両文化の良いところを際立たせながら等分に取り入れるという試み――に基づくものです。

そういえば、DEN さんは5月15日に『INSIDE OUT the LIVE 2010』でパフォーマンスされた際には、和服をアレンジした衣装を着ておられました。サウンドが洋楽風であるからこそ際立つ、そんなコーディネイトであったと思います。

“シグナル”
(Live, 2010)


この「シグナル」という楽曲は、ライヴ動画の中で DEN さんご自身がザックリと語っておられるように、俗に言うハッテン場でのカジュアル・セックスを題材としたものです。

DEN さんの書かれる歌詞は、ゲイ男性だけでなく異性愛の男性でも感情移入ができるような作りになっていますが、そこで描かれている切ない恋愛模様の中に、男性性の神話・幻想は、いっさい持ち込まれていません。「シグナル」の歌詞にしても、かなり直截的な性描写が行なわれている一方で、しばしば「男役」とか「女役」などという言葉で説明されてしまうような、性行為における能動性と受動性の役割分担が、決して固定的には描かれていません。

こうした描写のあり方は、LGBTシンガーならではのものであると同時に、DEN さんというシンガー・ソングライターさんが、属性から来る差異というものに非常に敏感で、その差異を優劣や正誤でとらえるのではなく、あくまでも対等にとらえ、その差異を一人でも多くの人たちに共感してもらえるような形にアレンジして、異なる文化のあいだに共感の輪を広げていこうとする、そうした姿勢の持ち主であることの表れなのではないでしょうか。

このブログをご覧のみなさまもぜひ、DEN さんのデビュー・アルバム『標された道』を、実際に手に取ってみてください。

標された道標された道
(2010/08/31)
DEN

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※アルバム『標された道』の試聴はこちらからどうぞ。

※DEN さんのオフィシャル・ブログはこちら


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2010.09.25 Top↑
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