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『五十六億七千万』表紙男性歌手としてCDデビュー後、性同一性障害を公表、そして性別適合手術を経て、現在では女性シンガー・ソングライターとして、主に関西方面で活動なさっている、麻倉ケイトさんの自叙伝『五十六億七千万』が、先月(2012年9月)、光文社より刊行されました。

私が麻倉ケイトさんのことを知ったのは、下のリンク先の記事がきっかけでした。

ケイト再出発!男性アーティストから歌姫に“転性”(スポニチ大阪、2010.11.20)

この時点での名義は「麻倉ケイト」ではなくシングル・ネームの「ケイト」でしたが、この記事を読んで私はケイトさんに大きな関心を寄せるようになりました。その理由は、ケイトさんが初めてメディアに登場した時から既に MtF(Male to Female)だったのではなく、一度は男性歌手として世に出ていたかただったからです。

男性歌手として大手のレコード会社からCDをリリースしていたアーティストが、性別適合手術を経て再デビューしたというケースは、海外ならばマーシー・フリーなどの例が既にあります(マーシー・フリーについての当ブログのエントリはこちら)。あるいは、女性歌手としてデビューしていたかたが男性歌手として再デビューというケースであれば、日本でも既に Girls to Men のサクヤさんなどの例があります(当ブログの Girls to Men についてのカテゴリはこちら)。が、男性歌手としてメジャー・デビューなさっていたかたが女性歌手として再デビューしたケースは、日本ではケイトさんが最初ではないでしょうか。

そうしたケイトさんの経歴は、上のリンクの記事中でも触れられていますが、このブログでも紹介させていただきます。

ケイトさんは奈良県のご出身。自身の性別への違和感を抱えながらも、2002年に本名の「新宅啓太」名義でシングル「INNOCENT LOVE/still―今でも」を、株式会社バップからリリース。2003年には「KEITA」名義でシングル「愛のカケラ」を、インディーでリリース。同年には、ケミストリーや中島美嘉さんといった大物アーティストも過去に出演したことのある、上海アジア音楽祭に出演。見事、優秀新人賞を受賞なさっています。

INNOCENT LOVEINNOCENT LOVE
(2002/02/21)
新宅啓太

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愛のカケラ愛のカケラ
(2003/03/26)
KEITA

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2005年には、大阪のABCテレビの情報番組『おはよう朝日です』にレポーターとして出演。2007年には、日本テレビの『24時間テレビ「愛は地球を救う」』に出演、この中で披露した自作曲「ARCHAIC SMILE」が、反響を呼びます。しかし、この前向きな内容の楽曲が反響を呼んだことで、かえって自分を偽って生きているという感覚が強くなったそうで、2009年からはホルモン治療を開始。そして同年、デビュー時から毎年の恒例となっていた滋賀医科大学の学園祭ライヴでのステージで、ついに性同一性障害をカミング・アウト。

そして翌2010年、去勢手術を経て、今度は女性アーティストのケイトとして、先にリンクしたスポニチの記事にあるとおり、シングル「女優/優」をリリースなさった、というわけです。

この「女優/優」を、私はスポニチの記事を読んですぐに購入しましたが、「女優」というタイトルを見て、最初は昭和歌謡のような曲調を想像していました。が、実際にはミドルテンポの骨太なファンク調のサウンドで、そのギャップには驚かされました。

「どうせ演じるのならば…主役がいいの」と歌われている、この「女優」という曲は、これまでは男性を「演じ」て生きてきたケイトさんが、これからは女性として、人生という舞台の主役として生きていくことを、高らかに宣言している曲でもあります。

女優 / 優女優 / 優
(2010/11/24)
ケイト

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さて、先月に光文社から刊行された『五十六億七千万』なんですが、ケイトさんは仏教を熱心に信仰されており、この本のタイトルも、弥勒菩薩が五十六億七千万年かかって一切衆生を救うとされていることに由来していますが、本の内容は仏教の啓発書ではありません。KEITA さんがケイトさんとして生きるようになるまでの半生が綴られています。

私はケイトさんの男性時代のCDも購入しているのですが、それらの作品の陰で、ケイトさんやマネージャーさんが、芸能界に跳梁跋扈している強欲で卑劣な詐欺師まがいの人々によって、多額の金銭を毟り取られ、困窮していたということを、この本を読んで初めて知りました。

そうした苦悩に加えて、ケイトさんの場合は、心と体の性の不一致という苦しみも、そこに加わっていたわけですが、ご自身の書いた曲を耳にしたリスナーやオーディエンスのかたたちからの、「感動した」「励まされた」という反響が大きくなればなるほど、本当の自分を偽って生きている自分は、それらのリスナーやオーディエンスのかたたちを裏切っているのではないかという感覚が強くなっていった、と、この本の中にはあります。

その結果、2009年のカミング・アウトへと至ったのですが、この種の罪悪感は、ケイトさんのようなトランスジェンダーのシンガー/ミュージシャンに限らず、これまでにカミング・アウトしてきた多くのゲイ、レズビアン、バイセクシュアルのシンガー/ミュージシャンにも共通していた感覚ではないか、と私は思いました。

たとえば、2010年4月13日に雑誌『The Advocate』誌でのインタヴューなどを通じてレズビアンであることをカミング・アウトしたアメリカのクリスチャン・シンガー・ソングライター、ジェニファー・ナップは、その『The Advocate』誌でのインタヴューの中で、「私は偽善者だった」と述べています(ジェニファー・ナップのカミング・アウトについての当ブログのエントリはこちら)。

単に隠しているのが辛いというだけでなく、自分が書いた前向きな曲が、リスナーやオーディエンスに生きる力を与え、その感動と反響が大きくなればなるほど、本当の自分を偽って生きている自分は、それらのリスナーやオーディエンスを裏切っているのではないかという罪悪感もまた、大きく膨らんでいくという、一種の矛盾。

この矛盾に苦しんできたオープンリーのLGBTのシンガー/ミュージシャンは、決して少なくない数でいると思います。

そして、現在進行形でこの矛盾に苦しんでいるクロゼットのシンガー/ミュージシャンは、さらに多くの数があるような気がしています。

それらのクロゼットのシンガー/ミュージシャンを、表現者として不誠実だと責めるべきではありませんが、LGBTのシンガー/ミュージシャンたちがそのような罪悪感を最初から抱えずに済むような社会の実現と到来を、私は願ってやみません。

ケイトさんの自叙伝『五十六億七千万』の中で描かれている、自分の音楽を支持してくれているリスナーやオーディエンスへの罪悪感は、シンガー/ミュージシャンのカミング・アウトにおいては、実は普遍的な背景であるように思います。それらの感覚が、非常に読みやすく、わかりやすい文体で書かれているので、このブログをご覧になってくださっているみなさんにも、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

五十六億七千万五十六億七千万
(2012/09/28)
麻倉 ケイト

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それでは最後に、ケイトさんのシングル「女優」のカップリング曲「優」をお聴きになってください。ファンク調の「女優」とはまた異なった趣の、荘厳なバラード曲です。

“優”
(2011)


↓↓↓麻倉ケイトさんのブログ↓↓↓
麻倉ケイト 五十六億七千万



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2012.10.21 Top↑
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