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前回のエントリでは、ニューヨークのボールルーム・シーンを発信源とするクイアー・ラップと、そこで活躍しているラッパーで、先月末に新作ミックステープをリリースした2組のうちの一人、Le1f(リーフ)の音源や映像を紹介しました。

そして今回は、その2組のうちのもう一人、ケイクス・ダ・キラー (Cakes Da Killa)について書いていきます。

ケイクス・ダ・キラーは、2011年に最初のミックステープ『Easy Bake Oven EP』を発表しています。そして、Le1f の新作『Fly Zone』の配信開始と全く同日の先月(2013年1月)29日に、ケイクス・ダ・キラーも、新作ミックステープ『The Eulogy』をリリースしました。

『Easy Bake Oven EP』ジャケット
『Easy Bake Oven EP』ジャケット

『The Eulogy』ジャケット
『The Eulogy』ジャケット


『The Eulogy』からの先行シングル「Goodie Goodies」のミュージック・ヴィデオは、今のところはまだ制作されていないようですが、前作『Easy Bake Oven EP』の収録曲「Whistle (Beat It Up)」のオフィシャル・ミュージック・ヴィデオは、YouTube にて視聴が可能です。ご覧になってみてください。

"Whistle (Beat It Up)"
(2012)


というわけで、ケイクス・ダ・キラーは女装ラッパーではありませんが、前回のエントリで紹介した Le1f と同様(か、あるいはそれ以上に)、日本で言うところのオネエ的な所作で、ギャングスタ・ラップをパフォーマンスしています。

日本のオネエ系タレントのみなさんをテレビ番組で見慣れているかたたちの目から見ても、ケイクス・ダ・キラーのオネエっぷりは、かなりのものである気がするのですが、こうしたスタイルを採択しているにもかかわらず、意外にもケイクス・ダ・キラーは、そのインタヴューの中で、クイアー・ラップについて懐疑的な発言が目立っているのが私には興味深くあります。

たとえば、今月(2013年2月)8日に『Out』誌のサイトに掲載された、『The Eulogy』の紹介記事によると、ケイクス・ダ・キラーは、「『クイアー・ラップ』のトレンドがどこに向かっているのかが僕にはわからなかったし、その一部にはなりたくなかった」と発言しています。

LISTEN: Cakes Da Killa's 'Goodie Goodies' (Out Magazine, 2013.02.08)

また、前回のエントリからリンクを張っている Pitchfork.com の記事によると、ケイクス・ダ・キラーは Le1f やその他のクイアー・ラップの先人たちに畏敬の念を抱いてはいるのですが、しかしその一方で、ゲイのラッパーであるというだけで、彼らの二番煎じ、後追いだと思われてしまうことを、非常に嫌がり、怖れているんですね。

(註:Le1f がラッパーとしてデビューしたのは、ケイクス・ダ・キラーよりも後のことですが、既にそれ以前から Le1f はプロデューサーとしてクイアー・ラップ・シーンではよく知られた存在でした)

これらのインタヴュー記事を読む限りでは、ケイクス・ダ・キラーというアーティストは、ゲイであることにはオープンである一方で、自分がオープンリー・ゲイのラッパーであることや、そうであり続けることについては、迷いとか怖れのような感情がある、という印象です。

『Easy Bake Oven EP』のダウンロードは、下のURLからどうぞ。
http://downtownmayhem.com/DTMRecords.html


『The Eulogy』のダウンロードは、下のURLからどうぞ。
http://mishkanyc.bandcamp.com/album/the-eulogy




さて、私は前回のエントリで、ニューヨーク・クイアー・ラップが現地ではどのように受容されているのかが、インターネットによるリサーチだけではわかりづらい、と書きました。

その感触に、依然として変化はないのですが、先に紹介した YouTube の「Whistle (Beat It Up)」のコメント欄に、興味深い投稿がありました。


それによると、異性愛女性を自称するユーザーさんが、「LGBTコミュニティが彼(ケイクス・ダ・キラー)のことを知らないだなんて恥ずべきことだ」と仰っているのです。

これを見て、ニューヨーク・クイアー・ラップの実際の受容の様子が、ほんの少しだけ、垣間見えたような気がしました。

そのコメントにあるとおり、確かにネット上にあるクイアー・ラップについてのレヴュー記事の大半は、ゲイ・メディアからのものではなく、ヒップホップ系のメディアからのものなんですよね。

とはいえ、私が Le1f やケイクス・ダ・キラーの存在を知ったのは、ゲイ・マガジン『Out』誌のサイトの記事がきっかけではあるんですが。

しかし、『Out』誌以外のアメリカのゲイ・メディアによるクイアー・ラップの記事は、確かにほとんど見かけないんですよね。



私は以前、ゲイのヒップホップ・アーティストの音楽活動を紹介している GAYHIPHOP.COM というサイトを、Queer Music Experience.で紹介したことがありました。

その GAYHIPHOP.COM のライターでもあったUKのゲイ・ラッパー、QBoy が、イギリスのゲイ雑誌『Gay Times』の2003年1月のインタヴューで、GAYHIPHOP.COM について述べていた言葉があります。それをここでもう一度改めて紹介させていただきます。

「(GAYHIPHOP.COM とは)ヒップ・ホップとアーバン・カルチャーの好きなゲイの男女が集まることのできる場所なんだ。彼らは、お決まりのゲイのステレオタイプには当てはまらないせいで、ゲイ・コミュニティからは敬遠されてるし、好んで聴いているアーバン・ミュージックがホモフォビアを含んでいるせいで、閉め出されてもいる。(中略)主流のゲイ・カルチャーこそが、狭量とか無理解のもとなんだ。同性愛者仲間のラップフォビアは、ホモフォビアよりももっと大きな衝撃を、その場で俺に加えてくるんだよ。」


※ GAYHIPHOP.COM は、以前ほど活発ではないものの、サイトを Facebook に移行して、現在でも継続しています。
https://www.facebook.com/GayHipHop

どうやら、ヒップホップの同性愛嫌悪というのは、実は一方的なものではなく、相互的なもの――つまり、ゲイ・カルチャーとヒップホップ・カルチャーは、お互いに嫌悪し合っている――というのが、実際のところであるようです。

そして、Le1f やケイクス・ダ・キラーのようなクイアー・ラップが、アメリカのゲイ・メディアではそれほど大きくは取り上げられていないのは、ゲイ・カルチャーによるヒップホップ嫌悪が、依然として続いていることの表れなのかもしれません。

そして。

『Out』誌による紹介記事も含め、クイアー・ラップについて書かれたネット上の記事をざっと読んだ限りでは、主流のゲイ・カルチャーにも受け入れられているフランク・オーシャンは、ニューヨークのクイアー・ラッパーたちにとっては、敬意を払う対象であるよりは、むしろ批判とか揶揄の対象となっているような雰囲気です。



主流のゲイ・カルチャーとクイアー・ラップが相容れていないのであれば、いったいどのような層が、クイアー・ラップを支持しているのか。

日本からインターネットで摘み食いをしているだけの私には、少々把握の難しいテーマであり、だからこそ私は、ニューヨーク・クイアー・ラップが気になって仕方がないのです。


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2013.02.19 Top↑
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